2018年4月6日、In-house SEO MeetupのSpin-off企画、Google Search Nightに参加してきました。Googleからは業界でおなじみのGary Illyesさん、長山一石さん、金谷武明さん、小川安奈さんが登壇され、大いに盛り上がりました。SEOとは、Search Engine Optimizationの略で、Googleなどの検索エンジンに適応的な設計を行うことで、Webサイトにより多くのユーザーを呼び込むことを目的とした活動のことです。もっとも近年では、テクニック的にランキング上位をハックすることよりも、ユーザー体験のクオリティを上げることで結果としてランキングが上位になることが重視されつつあり、SEOではなくSXO(Search eXperience Optimization)と呼ぶこともあります。

In-house SEO Meetupは、このSEOを実施する事業会社の担当者が、業界や競合の枠を超えて集まる自主コミュニティで、すでに7年以上の歴史をもちます。私自身も何度か参加してきていますが、こういったセミナーにありがちな顧客獲得や商談前提のネットワーキングではなく、純粋に検索テクノロジーの有効活用に興味があったり、業界全体のユーザー体験の向上に意識をもった方が多く、普段は競合同士となる企業の担当者が、仲良く情報交換しているのも特徴的です。

今回は、Googleのアウトリーチ活動を担当している4名が登壇し、AMA(Ask Me Anything)と題して、MFI(Mobile First Index)とよばれるあたらしいクローリング方針について情報共有とQAセッションがなされました。その個々のテクニカルな内容については、QAセッションに登壇された鈴木謙一さんをはじめ、木村賢さんなど参加者のみなさまがアップしてくださっていますのでここでは触れず、このイベントの社会的な意義について考えてみたいと思います。

 

Googleは、意外とオープンである

このイベントのひとつの意義は、Googleなどプラットフォームの「なかの人」とダイレクトにコミュニケーションが(一方的ではないかたちで)取れる場であることです。

Googleをはじめ、FacebookやAmazonなど、世界的なプラットフォームがあらたな「権力」として君臨していることは、多くの言説で指摘がされています。その世間的なイメージは、「便利なサービスを提供しながら、テクノロジーを高度化し、それによって世界中のデータを集積して、しかもその内容や仕組みを一切企業秘密とすることで、支配的な地位を維持拡大している」といった感じでしょうか。それは、半分当たっているけれど、半分以上当たっていない、と私は思います。

Googleにアウトリーチ活動を担当する部署があり、自社サイトやブログではもちろん、このような社外のイベントにも”Ask Me Anything”と題して積極的に参加をしています。このこと自体、一般のユーザーにはあまり知られていないかもしれません。もちろんそこには企業としてのマーケティングの意図が含まれているわけですが、それでも「権力」論で言われるような秘密主義的な姿とは異なる側面があることは、プラットフォームという存在を理解するために重要なポイントであると思います。

もちろん肝心のアルゴリズムそのものは、開示してくれるわけではありません。しかし、どの要素がシグナル(≒パラメーター)になりえるのか、あるいはなりえないのか、どのような思想でアルゴリズムのアウトプットが評価されているのか、どのようなWebページを、「良い」と考えているのか、これらはほとんど開示されているし、それを知りたいと思えば、公開されたドキュメントを読むだけでなく、直接質問できる場が用意されているのです。このイベントもまさにその場のひとつであるわけです。

Googleなどのプラットフォームが、ユーザーのデータとプライバシーを独占的に保持していることは事実です。しかし、一方的に権力を振りかざし、ユーザーから搾取しようとしているわけでもないのです。広告収入というキャピタリズム的なビジネスに支えながらも、ユーザーとWebサイトの運営企業に真摯に向き合おうとしていることもまた事実なわけです。この二面性はWebのプロフェッショナルのみならず、Webの一般ユーザーにももっと知られてよいことではないでしょうか。

競争ではなく、共創

このイベントのもうひとつの意義は、資本主義的な競争環境にあるWebマーケティングの世界に、共創できる基盤を構築しようとしていることです。In-house SEO Meetupの目的として、以下の5つが挙げられています。

  1. SEO実践者の社内価値を向上する
  2. SEO実践者を家族に誇れる仕事にする
  3. SEOを正しく行う企業を増やす
  4. 日本のSEO業界を盛り上げる
  5. SEOを生業とする企業にビジネス機会を提供する

先述したこととも重なりますが、このコミュニティがビジネスを第一義にするというよりは、SEO実践者の社会における価値向上を目指していることがわかります。逆にいえば、「SEO実践者」は、企業内においても、家庭においても、あまり理解されにくい仕事と思われていることが読みとれます。実際、このイベントでよく語られる「悩み」のひとつは、SEOにおいてユーザー体験を向上させるような試みが、必ずしも売り上げや利益などに直結するとは限らず、また、Webサイトの構造的な改変のために開発コストがかかることもあり、社内的な説得が難しい、というものだったりします。2番目の目的にある「家庭」という文脈においては、SEO(あるいはWebマスター)が企画屋でもありマーケティング屋でもあり技術屋でもありデザイン屋でもある、という「わかりにくさ」が象徴されているように思います。また、そのわかりにくさゆえに、一般ユーザーからは、先述したプラットフォームの「権力」の一端を担う、ユーザーのデータとプライバシーを搾取する一味とみなされることも少なくありません。

だからこそ、3番目の「正しく行う」ことの価値が強調されるわけです。これまでのSEOは確かに、ユーザーを騙すようなテクニックも少なくなく、検索エンジン・ランキングをめぐる激しい競争が、過度のハッキング競争へとつながってきた歴史は否めません。2016年に起きたキュレーションメディアの問題は、その顕著な例のひとつでしょう。このような問題を、自己反省も含めて業界として「自浄」していく、ひとつのきっかけになったのは、このような業界横断的なコミュニティの存在でした。実際、In-house SEO Meetupにおいても、キュレーションメディアの是非とその対策のあり方について、Googleを交えての議論が重ねられ、それが昨年の一部アルゴリズムの修正にも少なからず影響を与えていたと考えられます。

資本主義的な競争環境において、企業収益の追求と、ユーザー価値の実現のギャップをいかにして乗り越えていくのか、競争から共創へと、個人同士が自主的につながっていくこと、このことの社会的意義は決して小さくないのではないでしょうか。

技術をブラックボックス化しているのは誰か

さて、私自身はWebマーケティングやSEOを仕事にしてきたこともあり、いわばこの領域については「なかの人」でもあります。したがって、ここで論じている内容は、そのポジションからの視座に偏ったものになっていることからはまぬかれません。しかしこれらのことは、Webの制作やマーケティングに携わらない一般のユーザーには、おそらく知られていないことであり、それを少しでも発信していくこと自体に、意味があるのではないかと思ってます。

検索エンジンやWebが、理想的で健全な運営がなされていれば、一般ユーザーがこれらのことを意識する必要はないのかもしれません。しかし、フェイク・ニュースが話題となったり、キュレーションメディアの問題が炎上したように、検索エンジンのランキングが信頼できるのかどうか、わからなくなっている昨今だからこそ、プラットフォームやWebの送り手事業者を一括してブラックボックス化し、「悪者」にするのではなく、その成り立ちや「なかの人」のやっていることを少しでも伝えること・知ること——ある種の検索エンジン・リテラシー——が大事なように思えます。

Googleをはじめ、「支配的」と評される多くのプラットフォームは、部分的とはいえ積極的に情報開示を行うようになってきています。そして、その技術の思想やデータの使い方は、知ることができるばかりでなく、このようなイベントやコミュニティを通じてフィードバックするチャネルも開かれつつあります。もちろんこれらの「技術」は、何重にも積み重なったブラックボックスの総体ではあります。しかし、その利便性だけを享受しながら、何か起きれば全てが秘密主義でブラックボックスだからだと批判するのは的外れといわざるをえません。ブラックボックスは、技術の設計者が一方的に構築するものではなく、社会でその技術を利用し、利便性を享受するユーザーの意識によっても、構築されるものなのです。

この重層的なブラックボックスを、ビジネス的な支配ではなく、公共的な価値のために理解可能な水準に保持していくこと、さらにはWebの社会的・文化的な価値を持続的に向上させていくために、専門家と非専門家のあいだをつなぐ中間的なコミュニティの役割はますます重要になると思います。


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