AutoDrawは、多様なはずの体験を「選ばせる」人工知能

Googleが開発したAutoDrawと呼ばれるお絵かきツールが話題になっています。

落書きが一瞬でプロの絵に。Googleの自動お絵かきAI「AutoDraw」が超楽しい – BuzzFeed

Source: Twitter @Google

画面上に適当に描いた絵(というか、落書き)から、人工知能がそれに似たキレイな絵を見つけ出し、素人でも簡単に美しいイラストが描ける、というツールです(この体験を、ことばで説明するのは難しいので、実際にやってみることをオススメします)。

このツール、素人でも本格的なイラストが簡単に描けるということで、公開直後からネット上で話題になっています。その多くが、このツールを称賛するものですし、実際、すばらしい技術でありツールであると私も思いました。

しかし、私は実際にこのツールを使ってみたものの、何か異和感がぬぐえません。「絵を描くツール」だと思って使うのですが、どうしても絵を描いた気にならないのです。私自身は、もともとフリーハンドで絵を描くのはあまり得意な方ではありません。なので、自動的にキレイに絵が描けてしまうなんて、夢のようなツールのはずなのに、どうしても積極的に使おうという気にならないのです。

それはなぜなのか。

これが、「絵を描くツール」ではないからです。

使ってみるとわかりますが、使っていくうちに、自分の意識が、どんどん、「描く」ではなく「探す」ことに向いていきます。途中から、自分の描きたい絵を描くことから離れて、「探したい絵」の一部をインプットする作業に変わっていくのです。それはそれで、「発見」という刺激に溢れていて、楽しいことなのですが、この「楽しさ」が厄介なのです。ふと気づくと、当初自分が描こうとしていた何かから、ズレたものができあがります。そして、「こっちの方が欲しかったものなんだ」と、自分の認知を変える圧力がやってきます。果たして、この「欲しかったもの」は、本当に自分の表現したかった絵なんでしょうか?

こう思ってしまうのは、「絵を描くツール」という出発点が間違っているからです。

これは、「絵を描くツール」ではなく、「絵の検索エンジン」です。

キーワードの代わりに、ヒントになる落書きをインプットすると、大量にインデックスされた絵から、類似度が高いものが人工知能によってリストアップされる。ユーザーは、それを「選ぶ」。もし検索結果が不満だったら、別のキーワード、つまり別の落書きを試す。あるいは、キーワードを絞り込むように、落書きを詳細に書き加えていってもいいでしょう。いずれにせよ、このツールのユーザー体験は、限りなく検索エンジンのそれに近いのです。

だからなんなんだ?というツッコミがあるかもしれません。

ここで言いたいことは、検索エンジンはもちろん便利なものである。そして、絵の検索エンジンだって、同じように便利である。しかし、検索エンジンを、「文章を書くツール」とは考えないように、絵の検索エンジンを「絵を描くツール」と考えてはいけないのではないか、ということです。

もちろん、このAutoDrawの「絵」は、Webページの検索結果とは異なり、著作権処理がされた、見栄えの良い、選別されたものだけが出てきます。だから、この「絵」をコピーして組み合わせても、コピぺとして権利的な問題が起きるわけではありません。しかし、これは創作をしているのではなく、あくまで他者の作品の2次利用である、ということも、紛れもない事実です。それが悪いということではなく、それを自覚しながら、使いこなすことが重要だと思うわけです。教育の現場で、コピぺが問題となるのは、著作者の権利侵害の問題はもちろんありますが、何よりも、コピペをする人自身の学習や想像力の育成を、大きく阻害するからです。少なくとも、アウトプットが、自身の創作や成果ではなく、人工知能が選んだ他者の作品の寄せ集めであること、このことは、ユーザー自身がしっかりと自覚した上で、使う態度が必要なのではないでしょうか。

それを前提とした時、このAutoDrawは、素晴らしい「発見」と、2次創作の着想を広げる、新しい様態のメディアとして、人間の可能性を拡張してくれるツールになれるのではないかと思います。そういう意味では、AutoDrawというネーミングが、どうしてもミスリーディングに感じられてしまうことが、残念でなりません。