大学院で「研究」すること−「勉強」との違い

私は今、大学院の修士課程に通っているわけですが、なぜ、大学院に入る道を選んだのか、ここで言語化をしておきたいと思います。

 

まず、研究とは何か?

大学院の話をするとよく、「勉強好きなんだね」と言われます。言われるたび、少し困った気持ちになってしまいます。なぜなら、私は大学院に「研究」しに行っているのであって、「勉強」しに行っているわけではないからです。

「勉強」とは、すでに誰かによって構成され、世の中に公開された知識を、理解し内面化する活動です。言わば、ある種の「投資」として、知識を「消費」することです。
一方、「研究」とは、まだ誰も明らかにできていない何かを、知識として紡ぎあげ、表現する活動です。言わば、知識を「生産」することです。

端的に言えば、「勉強」はインプットが目的、「研究」はアウトプットが目的であり、両者はある意味真逆の活動と言ってもよいくらいです。
私は、ある種の自己表現としての「研究」をするために、大学院という場を選択したわけです。

 

ビジネスと学問の類似性:社会に新しい価値を生み出す

この「研究」という活動を維持し発展させる社会的な枠組みとして、「学問」というフィールドが存在します。「学問」の社会的機能は、社会に知識を生産し供給続けることにあります。
実は、「社会に新しい価値を生み出す」という点では、ビジネスと学問の社会的機能には類似性があります。つまりいずれも、「まだ社会に存在しない何か」を生み出すことが使命である、ということです。「勉強」はすでに答えのあることを内面化するプロセスですが、「研究」も「ビジネス」も、まだ答えのないことに対し継続的にチャレンジしていくプロセスです。

学問は知識を生産し、ビジネスはプロダクトやサービスを生産します。資本主義社会においては、必然的に、拡大再生産のサイクルをループさせることが求められることは、実は学問の世界も同型的な構造ではないでしょうか。大きな違いは、「貨幣」というメディアの役回りが、直接的な目的となるビジネスに対して、学問は社会的契約のもと間接化されている、ということです。

 

ビジネスと学問の違い:生産物の価値をどうとらえるか

ビジネスにおいて、生産物、すなわちプロダクトやサービスの価値は、顧客から支払われる対価、さらにはそこから得られる利益によって測られます。この利益を継続的に増大させ、拡大再生産を図ることが資本主義社会における企業の役割です。この循環を継続することは、必然的に、利益オリエンテッドな組織活動が追求されます。

これが進むと、社会を豊かにしていく活動として重要であることは間違いない一方で、「ユーザー志向」が失敗するワケで記述した通り、より広い意味での社会的価値の一部が見過ごされ、毀損されるリスクが出てきます。
すなわち、利益を生まない可能性のあるプロダクトやサービスの生産にリソースを振り向けるインセンティブがなくなり、「儲かる」活動に集中していくことで、「儲からない(でも社会には必要な)」活動が捨てられていくわけです。
当然、これらは社会保障という制度によって一部が担われるわけですが、より広く社会全体の価値創出に資する知識生産やイノベーションを実現するために、社会において、学問というフィールドが存在を許され、維持されているのだと考えられます。

 

なぜ、ビジネスから学問の世界へ飛び込んだか

さて、私自身の問題意識へと戻りましょう。

私自身は、大学卒業後、ビジネスの世界でサービスの生産の一翼を担ってきました。その過程で、上記のような視座を身につけてきたわけです。
それは、ビジネスとは原理的に利益オリエンテッドであること、そして、ユーザー志向(=広い意味での社会的価値の増大)と利益志向は、原理的にコンフリクトを起こす場面があるという原体験です。

そして、データサイエンスや人工知能といったテクノロジーが、マーケティングと結合した時、このコンフリクトがどんどん大きくなり、アンコトローラブル(制御不能)になるのではないかという危機感をもつようになったのです。もちろんそれは、社会全体のダイナミズムから見れば、杞憂でしかないのだと思います。社会は後付け的に、「適切な」進化によって適応的な態様が現れてくるものだからです。

しかしそれでも、内在者として、その「進化」が個々の身体にどのようなインパクトを与えるか、しっかり考えておくことが大切なのではないかと考えています。
このコンフリクトを乗り越えて、社会に共創的な価値生産ができるメディアのあり方、そこに内在する身体がもつべき「リテラシー」とは何か、探究するためには、ビジネスという利益オリエンテッドなフィールドを相対化し、間接化することが必要だというのが現時点での私の考えです。

ビジネスと学問、両方のフィールドの内在者として、新しい知識を生産できるように、頑張っていこうと思います。

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